第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ヒカルの引っ越しは、その日のうちに行われた。
元より荷物は少ない身。
分身したケイトと馬車馬の如く使われたエースとデュースにより、ヒカルの部屋はハーツラビュルに移された。
与えられた部屋は、オンボロ寮の自室よりも清潔で広い。
少しばかり調度品の色合いが派手だけど、寮の風潮からして仕方ないところだ。
「外から部屋の鍵が開けられた場合、警報が鳴る魔法をかけている。だけど、内側から鍵を開ける分には警報が鳴らないから、戸締りには十分注意するんだよ。」
「わかった。ありがとう、リドルくん。」
「キミにハートの女王の法律を強いる真似はしないけど、だからといって怠けてはいけないよ。夜更かしも朝寝坊も厳禁。おわかりだね?」
「は、はい。」
普段からヒカルは夜更かしも朝寝坊もしていないが、改めてリドルにそう言われると背筋がしゃんと伸びる。
「まあまあ、リドルくん。ヒカルちゃんもお疲れみたいだし、ゆっくりさせてあげようよ。なにかあったら、けーくんを頼ってね! いつでもお助けするよ~♪」
「ありがと、ケイトくん。」
「ああ、部屋の鍵を渡しそびれていたな。ほら、失くすなよ?」
「ありがと、トレイく――」
退室際、トレイに手渡された鈍色の鍵。
けれど、握らされたヒカルの手の中に、鍵とは違う感触が当たる。
「じゃあ、“また”な……?」
ふっと笑ったトレイが、仲間たちと共に部屋から出て行った。
扉が閉まり、ひとりになったところで、手のひらに握らされた物を確かめてみる。
ハートの形をした、片刻みの鍵。
そして、小さく折りたたまれたメモ。
何重にも折られたそれを開いてみると、綺麗な筆跡でこう書かれていた。
『今夜10時、出窓の鍵を開けておいてくれ』
それは、まぎれもなく、トレイからのメッセージ。