第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ナイトレイブンカレッジで提供される食事は、どれも美味しい。
大食堂のキッチンで腕を振るうゴーストは生前料理の道に携わっていたらしく、レストランで饗される料理と比べても遜色がない。
それを踏まえたとしても、トレイが作った朝食は美味しかった。
「ん、このムニエル美味しいね。なんのお魚?」
「ああ、ヒメマスだな。近くの湖で獲れたんだ、柔らかくて美味いだろ。」
質問に答えながら、トレイがヒカルのティーカップにおかわりのお茶を注いだ。
砂糖抜きのミルクティー。
人には口外していないヒカルの好みを的確に突いてきて、自分たちが親密であったことを知らされた。
気まずいような、こそばゆいような、微妙な気持ちを持て余していたら、食事を終えたリドルが上品にナプキンで口を拭い、まっすぐな眼差しでヒカルを見据えた。
「さて、本題に入ろうか。」
「あ、はい。」
ミルクティーをごくりと飲み下したヒカルは、リドルの真面目さに影響されて背筋を正す。
17歳にしてこの威厳、末恐ろしい。
「うちの寮生の不始末が原因で事故にあった以上、ボクにはキミをサポートする義務がある。」
「いや、ないよ。大丈夫。」
「……黙ってお聞き。」
「はい。」
不服そうに半眼になったリドルからお叱りを受けた。
リドルの中では、ヒカルのサポートがすでに決定事項になっているらしい。
できれば選択の余地くらい与えてほしいが、それを口に出せる雰囲気ではない。
「事態は、キミが考えているよりも深刻だよ。さっきも言ったけど、キミの記憶がないのを逆手にとって、あることないことを吹き込む輩がいてもおかしくないだろう?」
想像しやすいところで言えば、借金。
お金を貸していたから返せと言われても、記憶がないヒカルには嘘だとしても否定ができず、相手の要望に従うしかない。
「そんな間違いが起きないように、しばらくキミにはこのハーツラビュル寮に滞在してもらおう。」
「うぇ……!?」
その提案はまったくの予想外だった。
女の身であるヒカルが、男だらけの寮に寝泊まりするなど許されるものではない。