第5章 御都合ライアー!【トレイ】
リドルとケイトに案内されてハーツラビュルの食堂へと赴くと、赤と黒のクロスが掛けられたテーブルにはすでに多くの料理が並んでいた。
「ああ、来たな。ヒカルにユウ、それにエースとデュースも座ってくれ。ちょうど今、パンが焼けたところなんだ。」
ブレザーを脱いだ制服の上からエプロンをしたトレイが、ミトンをつけて熱々の鉄板を手にしていた。
焼き立てのパンはバターの香りがかぐわしく、空腹のお腹がぐうっと鳴る。
給仕をしているトレイを除いた面々が席に着いたところで、改めてリドルが口を開いた。
「ヒカル、今回の事故ではうちの寮生が迷惑をかけて申し訳なかった。ボクからも謝らせてくれ。」
「寮長! これは俺らがしでかしたことです!」
「お黙り、デュース。寮生の不始末は寮長であるボクの責任だ。当然、謝罪をするのもボクの役目さ。」
「……ッ、カシラに頭を下げさせるなんて、情けない……!」
大げさに落ち込むデュースを尻目に、ヒカルは手のひらを軽く揺らして首を横に振った。
「もういいんだってば、本当に。お医者さんの話ではふとしたきっかけで戻るかもしれないらしいし、そうじゃなくても、三ヶ月だけの記憶なんだから。」
2章から4章まで、体験し損ねたイベントは多い。
その痛手は今もヒカルの胸にショックを残していたが、もしかしたら、神様が言っているのかもしれない。
いつまでもプレイヤー気分でいないで、もっと現実を見なさい……と。
幸いにも、プレイヤーであった頃の経験から、学園でなにが起きたのかは知っている。
ただ、トレイと付き合うようになった経緯と思い出だけは戻ってこない。
ちらり、とトレイの方を窺い見るが、彼はなんでもないような顔をしながら、サクサクのミートパイを切り分けている。
平静を取り繕った表情の下では、傷ついた彼がいるのだろうか。
そう思ったら、少しだけ罪悪感に苛まれた。