第5章 御都合ライアー!【トレイ】
学校という名の狭い箱庭では、噂が巡るのが非常に速い。
ヒカルの嘘だらけの恋愛遍歴がそうであったように、今回の記憶を失くした事件もまた、翌日にはすべての生徒の知るところとなった。
当然、原因を作ったエースとデュースの耳にも入り、翌朝の大食堂で土下座をされる。
「ヒカル、ほんっとーに悪かった!」
「悪い! 女を巻き込むなんて、男として最低だ! いくらでもヤキを入れてくれ!」
誠心誠意に謝られ、二人が心から申し訳ないと思っているのは伝わった。
ヒカルだってエースとデュースに悪気があったとは思っていないし、二人に対して怒りは感じていない。
ただ、謝罪をする場所を選んでくれよ……とは思うけれど。
ひとりの女性に男二人が土下座をする図は、とんでもなく目立ち、とんでもなく興味を惹かれる。
おかげで、ヒカルたちの周囲には人だかりができてしまっていた。
「あー……、二人とも、頭を上げて。記憶は吹っ飛んじゃったけど、身体に大事はなかったんだから。」
土下座をやめるように促しても、二人は顔を上げない。
デュースはともかくとして、エースがそこまで深く反省をしているのは意外だった。
てっきり、「そ? じゃ、お言葉に甘えて~」なんて軽口を叩くかと思ったのに。
「なんの騒ぎかと思ったら、やっぱりお前たちか。」
途方に暮れていたヒカルの耳に、凛とした声が届く。
自然と割れた人だかりの中から現れたのは、リドル・ローズハート――ハーツラビュルの寮長である。
「エース、デュース、顔をお上げ。心のこもった謝罪にパフォーマンスは不要だよ。」
言外に「いらぬ注目を集めるな」と窘めたリドルは、ユウと共に立ち尽くしていたヒカルへ手を差し出した。
「朝食は、我がハーツラビュルに招待しよう。ここではキミも、落ち着いて食事ができないだろう?」
可愛い見た目に反してスマートで紳士的な誘いに、ヒカルの胸がときめいた。
少なくとも、三ヶ月前のヒカルはリドルのようなキャラが好きだったのだ。