第5章 御都合ライアー!【トレイ】
現実世界で、ヒカルには彼氏がいた。
初めてできた彼氏から、最後に別れた彼氏まで、総勢五人。
しかし、ヒカルは処女だった。
初めてそういう雰囲気になったのは、二人目の彼氏。
高校生になったばかりの頃で、互いに興味があった。
が、いざ彼氏の手が服の下に潜り込んだら、途端に気持ち悪くなり、初めてのそれは失敗した。
それが原因で別れてしまったのが悪かったのだろう。
ヒカルの中でセックスに対し壁ができてしまい、そういう雰囲気になるとギクシャクしてしまうようになった。
ガードが堅い、ノリが悪いと言われ、フラれたこともある。
高校を卒業し、社会に出て、やっぱりそれが原因で別れたあと、ヒカルはいよいよ焦る。
このままいったら、一生処女なんじゃない!?と。
成人しておきながら、処女というのはどうなのだろうと考えた。
友人の大多数が経験済みであることに疎外感を覚え、このままでは結婚もできないのではないかと根拠もない不安に襲われる。
好きな人ができたとしても、処女であると知られたら、重い、面倒くさいと思われてしまうのではないか。
付き合った彼女が処女だと知ってそんなふうに思う男は、ただのクソ野郎。
彼女を大事に想う男性の大半がそんなことを気にしないし、むしろ喜んでくれると知っている。
だけど、それでも、ヒカルにとって処女の自分はコンプレックスだった。
(そっか、わたし……処女じゃなくなったんだ。)
一番のコンプレックスが解消されたヒカルの気持ちは、はっきり言って微妙だ。
なにせ、肝心の記憶がないのだから。
それも初めての相手が年下で、さらには推しでもない相手だったとあれば複雑さが増す。
(トレイくん、どう思ったんだろ。)
こちらから自白しない限り、トレイはヒカルが処女だと知らなかったはずだ。
なぜなら思春期真っ盛りの男子高生は年上用務員の恋愛事情に興味津々で、これまでの彼氏の人数や恋愛経験など、根掘り葉掘り尋ねてきたから。
そんな生徒たちに真実を語る義理などなく、ヒカルは適当に話を合わせ、あたかも経験済みであるかのように話してきた。
それがまさか、学園の生徒と付き合うことになるなんて、いったい誰が想像できようか。