第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ヒカルの記憶喪失はすぐにクロウリーの知るところになり、学園外部から専門の医師が呼ばれた。
魔法の力でちょちょいと治してくれたなら、それこそマジックワールドの偉大さに感動するだろうが、現実は厳しいものだ。
「様子見するしかないですね、これは。変に頭の中をいじくると、今覚えている記憶までぐちゃぐちゃになってしまうので。」
ヒカルの記憶は、戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。
魔法使いにしては現実世界と変わらない診断をした医師は、特になんの処置するでもなく帰っていった。
「……まあ、気を落とさずに。三ヶ月……、そう、三ヶ月で済んだのですから、ラッキーと思いましょう!」
ぽんと手を叩いてヒカルを慰めるクロウリーの発言は、まさしく他人事だった。
プレイヤーはその三ヶ月に命賭けてんだぞ、と言いたくなったけれど、リアルを生きる者にとっての三ヶ月は短く軽い。
結果、ヒカルはなんの解決策を見出せぬまま、オンボロ寮へと帰る羽目になった。
「ヒカル、大丈夫!? 記憶がなくなったって聞いたけど!」
「やい、子分! オレ様のことはちゃんと覚えてるんだろうな!?」
帰宅した途端にユウとグリムに詰め寄られたが、心配しなくても二人のことはちゃんと覚えている。
「大丈夫、忘れちゃったのは三ヶ月間の記憶だけだし、もしかしたらポロッと思い出せるかもしれないから。」
なんて笑ってはみたものの、白紙に戻った三ヶ月はヒカルの頭に欠片も残っていなくて、思い出せるようになる気がしない。
「じゃあ、自分もヒカルの記憶が戻るように、三ヶ月の間に起きたこと、話して聞かせるよ。」
「ありがと、ユウ。でも、今日は疲れちゃったから、明日からお願いしようかな。」
「あ、そうだよね。ごめん。」
ユウの労りの眼差しを受けながら、ひとりきりになりたくて自室へと引っ込んだ。
記憶を失ってからずっと、誰かが傍についていた。
心強かったし、ありがたかったけれど、でも、ヒカルは早くひとりになりたかった。
じゃないと、心の叫びを吐き出せやしない。
自室の扉をしっかりと閉め、ベッドにダイブしたヒカルは枕に顔を押しつけて叫ぶ。
「……脱処女したのかよ!!」