第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「……どのくらいって?」
するりと、トレイの腕が肩を滑り落ちて腰を抱いた。
息が触れ合うほどの距離でそんなことをされたら、記憶を失う以前の自分たちの仲がいかに親しいかを証明するようなもの。
「だ、だから……、どこまでの恋人だったのかなって……。」
「質問の意味がよくわからないな。」
いや、それは嘘だ。
いくら三ヶ月の記憶を失ったヒカルでも、トレイと付き合いが浅いヒカルでも、それが嘘だってことは見破れる。
だって、トレイの表情はどこか悪戯っぽく、この状況を楽しんですらいるようだから。
「大人を揶揄わないで……。」
「大人っていったって、年齢も少ししか変わらないだろ? ……それに、俺はヒカルの子供っぽくて可愛いところをたくさん知ってるしな?」
「こ、子供っぽくて、可愛いところ?」
なんだそれは。
まさか、ユウにだけしか見せていないようなだらしなくてズボラな部分を、トレイにも曝け出しているとでも言うのか。
自分のあらゆる醜態を想像して青ざめるヒカルの隙をつき、ベッドに足を上げたトレイは空いていた片手でヒカルの項を撫でる。
こうなるともう、本当に恋人同士の抱擁だ。
そして、ヒカルの暫定的な恋人は、上背のある高さからヒカルを見下ろしながら艶めいた視線を送る。
「誰も知らないような姿のヒカルを、俺だけが知ってるよ。この服の下が、どうなっているのかも……。」
襟元に潜り込んだトレイの指がつっと鎖骨をなぞり、たちまちヒカルの肌が赤く染まった。
「……ッ、そ、それはつまり……、一線を、超えたってこと……!?」
「ハハ、色気のない言い方をすると、そうなるな。」
「……!!」
もはや、声にもならない。
凄まじい情報が頭の中に入ってきて、オーバーブロット寸前だ。
たった三ヶ月の間に、異世界で彼氏ができて、なおかつセックスをしていた。
それはつまり、ヒカルの中で“とあるもの”がなくなったことを意味していた。