第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「……覚えてない、って言いたそうな顔だな?」
未だ言葉が紡げないヒカルに、トレイが眉尻を下げながら呟いた。
しかし、寂しそうな彼の顔を見ても、ヒカルの心に残るのは戸惑いだけ。
「ほんとう、に?」
「ん?」
「本当に、わたしとトレイくんが……付き合ってたの?」
単なる事実確認のつもりで尋ねたけれど、ヒカルの質問はトレイの気分を害したらしく、掴まれた肩を押されて正面に向き合わされる。
「付き合ってた、じゃない。付き合ってる、だろ? まるで終わったみたいな言い方はしないでくれ。」
過去形ではなく、現在進行形。
ヒカルとトレイの関係は、今現在も続いている。
「ご、ごめんなさい。覚えてない、や……。」
「……そうか。」
そもそも、そもそもに……だ。
記憶にある限り、ヒカルはトレイに特別な感情を抱いていなかった。
ヒカルの推しはリドルやエペルのような可愛い系男子で、トレイはハーツラビュルの保護者的立ち位置の面倒見が良いお兄さん……といったイメージ。
決して好みのタイプとは言えない彼と、どのような経緯があって付き合うことになったのだろうか。
「安心しろ、すぐに思い出せるさ。」
「うん。あの、ちなみにわたしたちが付き合うようになったきっかけは……?」
「ああ、ヒカルから告白してくれたんだっけな。」
「わたしから!?」
「俺のことが好きだって言ってくれて。嬉しかったよ。」
さっきから、驚きの連続だ。
もしやトレイから告白され、つい嬉しくなって交際を始めたのかと思いきや、ヒカルから告白したのだという。
聞けば、ヒカルがトレイに告白をしたのは2章でトレイが怪我負った時だというから、ますます混乱した。
1章の終わりから2章の序盤まで、さほど日にちは開いていないというのに、いったいヒカルにどのような心境の変化があったのだろうか。