第5章 御都合ライアー!【トレイ】
冗談だと思いたい。
真面目だけどユーモアもある、トレイのジョーク。
でも、トレイはこんな時に笑えない冗談を言うほど空気が読めない男ではないし、なにより、窓の外の風景が、保健室に掛けられたカレンダーが、ヒカルの推測を証明していた。
「え、嘘……。え……?」
「どうした?」
目に見えて戸惑い出したヒカルに、トレイの顔が引き締まる。
いくら真面目で模範的な生徒だといっても、トレイは10代の学生。
頼るべきは大人の教師だとわかっているが、奇しくもこの場にはヒカルとトレイしかいない。
だからどうか、トレイに頼ったヒカルを責めないでほしい。
「記憶が、ない……。」
「それは、事故の前の? 大丈夫だ、きっとしばらくすれば――」
「そうじゃなくて、もっとたくさん! いち、に、……三ヶ月、三ヶ月分の記憶がなくなってる!」
小学生でもわかるような計算を指折り数え、真っ青になりながら訴えた。
「三ヶ月? てことは、リドルの事件があった頃まで?」
「そう。マジフト大会も、期末テストも、ホリデーだって覚えてない!」
1章を終えたと思ったら、いきなり4章の終わりまでワープしている。
これがゲームなら、クレームじゃ済まないほどの致命的なバグだ。
しかし、現実ではバクだけで終わらない。
三ヶ月もあれば交友関係も、仕事も変わっているだろうし、なによりここはツイステッドワンダーランド。
(最悪! 2章も3章も、4章だって見たかったのに……!)
なんのためにヒカルが用務員を選んだかといえば、生の彼らの活躍を第三者として目に焼きつけたかったからだ。
それを一気に見逃したと知って、ヒカルの絶望は凄まじい。