第5章 御都合ライアー!【トレイ】
不審がるヒカルの心情は顔に出ていたのだろう。
人が良いトレイは白い歯を覗かせながら、困ったような笑みを浮かべる。
「もしかして、覚えてないか? お前、錬金術の授業中にエースたちのせいで爆発に巻き込まれたんだよ。」
「ばく、はつ?」
「ああ、運が悪かったな。たまたまクルーウェル先生に届け物をして、エースとデュースの大釜に近づいたタイミングで爆発するなんて。」
「……?」
そんたこと、あったかな。
痛むこめかみを指で押さえながら、記憶を辿ってみる。
(おかしいな……、クルーウェル先生に届け物をした覚えなんかないけど。)
ヒカルの記憶は、普段どおりの一日を終え、オンボロ寮のベッドに入って眠ったところで終わっている。
リドルのオーバーブロット事件を終え、なんでもない日のパーティーに招待された数日後の記憶。
「爆発自体はたいしたことなかったんだが、お前は転んだ拍子に頭を打ったみたいで……。いや、すまない、うちの寮生のせいで。」
「あ、ううん。」
話を聞くと、ヒカルを保健室まで運んだのはクルーウェルのようだ。
不運は続くもので、偶然にも養護教諭が不在。
事故の後片付けと生徒の指導があるためクルーウェルはいつまでもヒカルの傍にいることができず、かといって意識がないヒカルをひとりにすることもできず、そこでたまたま通り掛かったトレイがヒカルの看病を任された。
「それはまた、お世話を掛けました……。」
「いや、どちらかというと役得だったよ。」
「え?」
「ん、なんでもない。さっきも言ったが、うちの寮生の不始末だ。気にしないでくれ。あいつらも、ホリデー明けで浮ついてたんだろうな。」
「ああ、そっか、ホリデー…明け……。」
って、ちょっと待て。
ホリデー明け?
ホリデー明けとは、なんだ?
ここで初めて、ヒカルは明確な違和感を覚えた。
ヒカルが学園で働き始めてから、約一ヶ月。
季節は、夏から秋に移り変わっていく頃だった。
なのになぜ、窓の外には雪が積もっているのだろう。
なぜトレイは、あたかもホリデーが終わったような口ぶりなのだろう。
ホリデーとは、冬休みのこと。
ゲームのシナリオで言えば、4章の終わりである。