第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ご都合主義、という言葉を知っているだろうか。
世間一般で認知されている意味としては、その場その場で都合よく態度や意見をころころ変え、八方美人のように振舞うことを指す。
しかし、マンガやアニメなどでよく見られるご都合主義は、それらとは異なる意味を持つ。
やや無理がある展開だったり、奇跡的な偶然の連発。
現実に生きていたら絶対に遭遇しないような場面が、作者の想像によるご都合設定で作り出される。
現実にはありえない……なんて誰でも思うことだけど、そんなことを言い出してはキリがない。
マンガやアニメ、ファンタジーの世界とは、ご都合主義の塊で成り立っているようなものだ。
と、まあ、前述が長くなったけれど、ヒカルがなにを言いたいのかといえば、ヒカルがトリップしたこの世界は、まぎれもなくファンタジーな世界だってこと。
つまり、ご都合主義の塊なのだ。
当然、ありえない展開はヒカルのところへも平等にやってくる。
目を覚ましたら、知らない部屋にいた。
染みひとつない真っ白な天井はオンボロ寮とは似ても似つかず、ヒカルは何度か瞬いては首を傾げた。
「……い…った。」
不意につきりと頭痛を覚え、眉根を寄せる。
すると、すぐ傍にいた誰かがヒカルの顔を覗き込んだ。
「目が覚めたのか。よかった、気分はどうだ?」
「え……、トレイ…くん……?」
ヒカルの顔を覗き込んだのは、トレイ・クローバー。
ハーツラビュル寮の副寮長で、ナイトレイブンカレッジの三年生。
ヒカルの運命共同体であるユウは、エースとデュースを筆頭にハーツラビュル寮生と仲が良い。
なので必然的にヒカルもハーツラビュルによく出入りをしているが、かといって、生徒でもないヒカルは彼らと親密と呼べる間柄でもない。
「え、えぇっと……?」
状況がさっぱり飲み込めなくて周囲を見渡せば、ヒカルが寝ていたのは学園の保健室だった。