第1章 全話共通プロローグ!
ヒカルの一日は、ゲームに始まりゲームに終わる。
今日も今日とて歩きスマホをしながらゲームを開いた。
歩きスマホはいけないって?
そんな固いことは言わないでほしい。
大丈夫、ちょっとレベル上げをするだけだから。
そんなふうに思っているものの、ヒカルの足取りは覚束ない。
なぜなら、今日はバイト先のひとつで飲み会があり、酔っ払っているのだ。
日々のストレスのせいか、いつもより多めに飲んでしまった気がする。
ふわふわ気分が良くなって、街の大通りを歩く。
終電はとうに逃してしまい、タクシーを使って家に帰るか、ファミレスや漫喫で一夜を明かすかの二択。
普段のヒカルであれば、迷わず後者を選ぶ。
夜間のタクシー代は馬鹿にならないのだ。
しかし、酒の力は偉大。
すっかり気分が良くなったヒカルは、タクシー乗り場を探してうろうろした。
(あー、あったあった。ここだぁ。)
ラッキーなことに、タクシー待ちをしている人々の行列はない。
その代わり客待ちをしているタクシーもいなかったので、ヒカルはスマホ片手にタクシーを待った。
ダダ、ダダ、ダダ、ダダ、ダダ。
どれくらい待った頃だろうか、聞き慣れない音がヒカルの耳に届き、顔を上げた。
リズミカルにアスファルトを打つ音は、ヒカルが待つタクシーが生む音ではない。
「……。」
タクシー乗り場に、一台の車が停まった。
何度でも言う、タクシーではない。
真っ黒な荷台を引くのは、悪趣味な装飾品をぶら提げた真っ黒な馬。
つまり、馬車だ。
街の往来に馬車。
ここは観光地でもセレモニー現場でもない。
普通なら、度肝を抜かれるだろう。
ヒカルもまさしく、度肝を抜かれた。
違う意味で。
「ツ、ツイステの馬車……!」