第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
ぎゅうぎゅうに絞めていた腕の拘束を外し、ヒカルの両頬を包んで上を向かせた。
抱擁を解いたのは、彼女がもう、アズールの元から離れていかないと知ったから。
「さあ、聞かせてください。あなたの願いはなんですか? なんでも叶えてさしあげましょう。」
別れたい、元の世界に帰りたい、という願いを除いて。
「……うーん、ちょっと思いつかないや。また今度にしてもいい?」
「なんて無欲な人なのでしょう。ええ、構いませんよ。ヒカルさんにはいつ何時であっても、僕を頼る権利と資格があるんですから!」
すっかりいつもの調子を取り戻したアズールは、恭しくヒカルをソファーに座らせようとして、絨毯に散らばったままの納豆に気がつく。
発酵した豆の異臭が雰囲気をぶち壊しにしていて、このまま放ってはおけない。
「ああ、すみません。すぐに片付けますね。タオルと消臭薬を持ってきますので、少々お待ちを……。」
「手伝うよ。……でも、もったいないなぁ。見た目も匂いも、完全に納豆なのに。」
そう言って、床に転がった器を拾ったヒカルが、残っていた納豆を指で摘まんで食べた。
納豆を、食べた。
毒入りの納豆を。
「……ッ!? ちょ……ッ、今、食べました!?」
「え、うん。せっかくアズールくんが作ったものだし、一口くらい食べてもいいでしょ?」
「だ、出しなさい! 今すぐ! ほら、ペッして!!」
顔面蒼白になりながらヒカルの顎を掴み、無理やりに口を開けさせる。
だが、目を白黒させながら驚くヒカルの口の中には、なにも残ってはいなかった。
「な、なんてことだ……。」
「ど、どうしたの、急に。落ちたものを食べるの、そんなに地雷だった?」
「そんな……、そんな馬鹿らしい話じゃないんですよ。あれは、あの納豆には、僕が作った薬が入っていたんです!」
「……はあ!?」
盛った薬は、ヒカルを陸で生きられないようにする毒。
両想いになった今、アズールにもヒカルにも必要がない毒だった。