第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
シャワーを浴びて、髪を乾かし、ほんのり化粧をしたヒカルは、意を決してモストロ・ラウンジへ出陣した。
閉店後のラウンジは薄暗く、アクアリウムの発光だけが店内をぼんやりと照らしている。
もし店の前でジェイドやフロイドが待ち構えていて、彼らにアズールの部屋まで案内されたらどうしようかと思っていた。
夜の私室ですることは限られていて、さすがに悟られるのは恥ずかしい。
けれど、そんなヒカルの心配は不要なもので、ラウンジの入口で待っていたのはアズール本人だった。
「……遅かったじゃないですか。」
「女子にはいろいろと準備ってもんがあるの。デリカシーを持てって、さっきも言ったでしょう?」
「それは失礼。では、紳士らしくエスコートでもしましょうか?」
手袋をした手をさっと差し出され、その手を取ろうか僅かに悩む。
「……いい。自分で歩けるから。」
「おや、冷たいですね。……どうぞ、こちらです。」
ラウンジを抜けて、オクタヴィネルの居住区へ足を踏み入れる。
ヒカルがパトロールするのは談話室や園庭などの共用部に限られていて、個々の部屋が連なるエリアには初めて入った。
均一に並んだ扉の向こうでは、今も寮生たちが各々の時間を楽しんでいる。
そう思ったら急に息苦しくなって、知らず知らずのうちに足音を殺した歩調が遅くなった。
「心配しないでください。ヒカルさんには隠形魔法をかけてあります。誰かと鉢合わせても、あなたの姿は見えません。」
「そう、なんだ。」
いつの間にそんな魔法をかけられたのだろう。
透けているわけでもない身体は自覚症状がまったくなくて、本当に魔法がかかっているのか首を傾げたくなる。
「どうです? ちゃんとデリカシーのある男でしょう?」
「自分から言ったら台無しだけどね。」
「あなた、たまには素直に褒めたらどうですか。」
「はいはい、えらいね~。」
見えないとわかった途端、ヒカルの行動は大胆になって、アズールの髪をくしゃくしゃと撫でる。
「ちょ……、ヘアセットが崩れるでしょう! 子供じゃないんですから、もうちょっと相応しい褒め方を……!」
「いちいち注文が多いなぁ。」
そういうところも、可愛いと思うのだけど。