第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
数日前のダークマターと比べたら、試作品57号は上出来な仕上がりだ。
色や匂いは若干異なるものの、ヒカルが知る納豆と見た目も近く、きちんと食べ物として認識ができる。
「安心してください、ヒカルさんに実食をお願いする前に、ちゃんと安全性は確認しています。」
「安全性? アズールくん、これ食べたの?」
「まさか。僕の舌は肥えているんで、茶色く発酵した豆なんか食べませんよ。」
そんな身も蓋もない言い方を。
でも、多くの外国人に敬遠される食べ物だし、こちらの世界の人々にもあまり受け入れられないかもしれない。
「えーっと、じゃあ、どうやって安全性を確かめたの?」
聞きたいような、聞きたくないような。
実はちょっと、予想ができている。
「ふふ、僕の実験に付き合いたいという“親切な方”は、とても多いんですよ。大丈夫です、そちらの試作品57号は被験者の体調を丸一日観察したのち、あなたに提供しているものですので。」
「……。」
被験者となった“親切な方”とは、十中八九アズールに弱みを握られた学園の生徒だろう。
ヒカルが知らないうちに多くの生徒が犠牲になったと知り、憐れみが消えない。
「念のため、胃薬も用意してありますからね。ご心配なさらず、対価は取りませんよ。ふふふ……。」
「完全に悪い顔してるよ……。」
なにはともあれ、多くの犠牲を経て完成した試作品57号だ。
食べないわけにはいかない。
一度ダークマターを口にした経験があるヒカルは、ぐんと食べ物に近くなった試作品を抵抗なく口へ運ぶ。
(味は……、まあ、豆だな。)
納豆独特の旨味がなく、粘りも少ない。
硬い触感が残る豆は、蒸し時間が足りないようにも思えた。
(ていうか……この納豆、どうやって作ってるんだろ。)
実験室にあるのはビーカーやフラスコなどの器具ばかりで、料理に使うようなものはない。
せいぜい大釜があるくらいだが、調理というより精製に近く、どう考えても普通の調理法ではなさそうだ。
まあ、ここは魔法士養成学校だから、深くは考えないようにしよう。