第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
珊瑚の海から陸に上がり、一年余り。
見かけはすっかり人間らしくなったアズールだが、人間についてはまだまだわからないことが山ほどある。
例えば、人間の女性。
シャチ、イカ、チョウチンアンコウ。
海の世界では雄より雌が強い個体が多くいるが、人間はその限りではなく、女性の身体は柔らかく細い。
知識としては知っていたけれど、アズールが身をもってそれを知ったのは、つい先日の話。
あの日、ユウからヒカルの具合が悪いと聞いた朝、アズールは当初、ヒカルのことをたいして気に掛けてもいなかった。
心配するどころか、体調不良はヒカルがついた嘘かもしれないとすら考えていたほど。
だから、道端で蹲り、顔を真っ青にして苦しむヒカルを発見した時には、一瞬思考が止まった。
動けなくなるほど体調が悪いのなら、なぜ無理をしてまで外に出るのか。
抱え上げた身体は嘘のように軽く、学園に通う人間たちと同じ生き物なのかと疑うくらい。
(すぐに消えてしまいそうだ……。)
恋に破れ、儚く海に散ったおとぎ話の人魚姫のように。
「さあ、これが改良に改良を重ねた、試作品57号です!」
「……57? ん、聞き間違いかな? あ、すごいね。ちゃんと見かけは納豆みたい!」
ヒカルに褒められたアズールは、得意げになりながらふふんと胸を反らす。
「でしょう! 豆のフォルムを残し、素材の味にも配慮した至高の一品です!!」
「それはせめて、合格してから言おうか。」
「これから合格するので問題ありません! さ、食べてみてください。さあ、さあ!」
いつからかアズールは、ヒカルに対して気を遣わなくなった。
気を遣わないというより、自分を偽らないと言った方が正しい。
きっかけはたぶん、あの日。
アズールのせいで体調を崩したヒカルが、一度も責めてこなかったら。
恨み言のひとつも口にせず、アズールが与えた薬に感動した彼女は、自分の味方だと思ったから。
なぜそう思ったのかは、わからない。
ジェイドやフロイドと違って付き合いは一番短く、信頼できるほどの情報だってないのに。
ただ、そんなヒカルに認められたい願望だけが募っていく。