第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
魔法のジョウロを手に、無理を押して仕事に出たヒカルは、すぐさま後悔をしていた。
ずきずき痛む胃は激しさを増すばかりで、まともな仕事なんかできそうにない。
結局立っていられなくなり、木の幹に重心を預けながら蹲った。
(今からでも…保健室に……。)
重い腰を上げようとするけれど、少し動くだけでも胃が痛み、ヒカルから行動力のすべてを奪う。
最悪、通り掛かった誰かに助けを求めるしかないが、オンボロ寮の近くを通り掛かる生徒がいるとも思えず、ネガティブな思考がますます体調を悪化させていく。
気を失った方が何倍もマシだけど、誰にも発見されそうにない焦燥と不安からおちおち眠ることもできない。
しかし、物語の救世主は、いつだってピンチに駆けつけてくれる。
「……――さん、ヒカルさん、大丈夫ですか? しっかりしてください。」
優しく肩を揺すぶられ、背中を丸めて蹲っていたヒカルは、朦朧としたまま顔を上げた。
眉間に皺を寄せ、心配そうにこちらの様子を窺っていたのは、体調不良の原因であるアズール本人だった。
「ア…ズール……、くん。」
どうしてここにいるの?という質問までは紡げない。
体調が悪すぎた……というより、ヒカルがなにかを言う前に、アズールの質問地獄に見舞われたからだ。
「あなた、体調が悪いのは本当だったんですか? なら、なぜおとなしく寮で寝ていないんです? このジョウロ、まさかその顔色で仕事をしようとしていたんじゃないでしょうね?」
矢継ぎ早に投げ掛けられる問いに、目を回しそうになった。
なにから答えればいいかと悩んで口を開いたら、そっと人差し指を唇に当てられて、黙るように命じられる。
「答えなくて結構。まずは保健室へ行きましょう。」
でも動けないんだ、と伝えようとしたら、ヒカルの身体がふわりと浮いた。
背中と膝裏に感じる、アズールの手。
まさかのお姫様抱っこに、一瞬だけ胃痛が吹き飛んだ。
「あ……。」
「なんですか?」
「抱きかかえる筋力……、あったんだね……。」
「馬鹿にしてます!? いいから、少し黙っていてください!」
怒りながらも、アズールの足取りは慎重だ。
それが精一杯の気遣いだと知り、はにかみながら目を閉じた。
できるならばずっと、この腕に抱かれていたいと願いながら。