第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
用務員であるヒカルの仕事のひとつに、パトロールがある。
これは困った生徒を発見するためという某子供向けパンアニメのヒーローみたいな理由ではなく、建物の破損や備品の損傷を探すための行動だ。
そのためヒカルは各寮を含めた学園内すべての建物内に入る権限を持っている。
今日のヒカルは、カレッジの一郭にある植物園を訪れていた。
花壇の花と違って植物園の草木はサイエンス部や山を愛する会の部員たちが管理しており、ヒカルの管轄ではない。
しかし、スプリンクラーや換気口の点検などは、用務員であるヒカルの仕事。
放課後になると部活が始まり、部員たちの邪魔になってしまうので、授業中の時間を見計らって点検をする。
広い温室内にはスプリンクラーだけでもけっこうな数があり、ひとつひとつ見回るだけで骨が折れる。
「よし、ここも問題なし……っと。残るはあとひとつか。」
カレッジ内に用務員はヒカルひとりだけ。
単独行動が増えるうちに、自然と多くなる独り言。
さっさと次のパトロールに出掛けたいヒカルは、少し横着をして道なき茂みに突入した。
ぐるりと回って行くよりも、こちらを突っ切った方が近道なのだ。
「……いてッ」
「え!?」
茂みを抜けた先で、むぎゅっとなにかを踏んづけた。
同時に上がった低い声に、ヒカルは文字どおり飛び上がる。
ヒカルの足の裏、正確には足の裏があった場所には、にょろりと伸びたしなやかな尾。
踏んでしまった尻尾を辿れば、獣の耳を生やした獰猛なライオンが機嫌悪くこちらを睨んでいる。
「……おい。今、俺の尻尾を踏みやがったな?」
「レ、レオナ、くん……!」
ヒカルが踏んづけた尻尾は、サバナクロー寮長、レオナ・キングスカラーのものだった。