第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ジェイドが持ってきた制服に着替えたフロイドが、じゃーんと両手を広げて支度完了の合図をした。
ボタンを掛け間違えているのはご愛嬌。
「ジェイド、準備できたぁ! 学校行こ! ヒカルちゃん、またあとでねぇ!」
「はい、フロイド。……ああ、ヒカルさん。貴方と仲良くしたい気持ちは本物ですから、これからも末永く、よろしくお願いしますね?」
なんだかすべてがジェイドの思いどおりになったような気がして、ヒカルの頬がひくついた。
るんるんと足取り軽く部屋を出て行くフロイド。
ご機嫌な兄弟を追おうと一礼をして背を向けたジェイドに、ヒカルは尋ねてみた。
「ねえ、どこまで計算どおりだったの?」
「……さて、なんのことでしょう?」
「惚けないでよ。わたしがフロイドを好きになるって、わかってたんじゃないの?」
「……おやおや。」
ふふっと怪しい笑いを零すところが、ヒカルの予想は正しいと証明している。
半眼になって睨んだら、観念したジェイドが愛想笑いを引っ込めた。
「当然でしょう? フロイドが狙った獲物を逃すはずがありませんし、なにより、フロイドの魅力がわからないほど、貴方は愚かではないはずです。」
「お、おぉう……。」
それはちょっと、兄弟愛がバカすぎないか?
あなたの兄弟、ちょっとイカレてますよ……とツッコミたかったけれど、そういえばこの人もイカレてるんだったと思い出した。
「しかし先ほども申し上げたとおり、フロイドに貴方という恋人ができて嬉しい気持ちに偽りはありません。」
再び笑みを浮かべたジェイドの表情には、あの嘘っぽさが消えていた。
「ふふ、やはり貴方は僕が思っていたとおり人だ。とても楽しかったですよ。……それでは、ごきげんよう。」
優雅に一礼をしたジェイドが今度こそ寮から出て行く。
二人が学校へ向かったのを確認して、ヒカルは大きな息を吐きながらベッドに横たわる。
身体がしんどい。
今日の仕事はお休みしよう。
「うう、双子に誑かされた感がすごい。……フロイドとジェイドなんて、せいぜい闇堕ちしたアズールに苦労すればいいんだ!」
彼らへの仕置きをアズールに丸投げしたヒカルは、布団を被ってふて寝をした。