第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
なんとなく空気を読んだヒカルはジェイドの問いに積極的に頷いて、フロイドにも確認を取った。
「あ、うんうん。恋人。そうだよね?」
するとフロイドは上機嫌に笑顔を咲かせ、ヒカルをぎゅうぎゅう抱きしめる。
「そう! 見て、ジェイド! ヒカルちゃん、オレの恋人!」
「ぐ、ぐぇ……、苦しい……。」
力加減というものを知らないのだろうか、ちょっと内臓が飛び出そう。
「おめでとうございます。兄弟に恋人ができて、僕も嬉しいです。でもフロイド、貴方も素敵な恋人を得たのなら、恋人の言うことはちゃんと聞かねばいけませんよ?」
「わかった! じゃあヒカルちゃん、ちょ~面倒だけど、オレ学校行ってくるね!」
「あ、うん。えらい、えらいよ! いってらっしゃい!」
さすがはジェイド、フロイドの扱い方をよくわかっている。
ヒカルに褒められてテンションが上がったフロイドは、脱ぎ捨てたままのシャツを拾い上げ、意気揚々と準備を始めた。
「……ヒカルさん。」
「あ、はい、なんでしょう?」
「おやおや、随分とよそよそしいのですね。フロイドの恋人になったのなら、僕たちはもう家族同然だというのに。」
「はは、そう…だね……。」
なんて、ぎこちない笑みを返してみたが、ヒカルは知っている。
ジェイドという男がいかに腹黒くて、フロイド以上に手に負えない男だということを。
「しかし、残念です。てっきり貴方は、僕に興味があるものと信じていましたのに。」
「は、ははは……。」
もう、笑うしかない。
どう反応しても遊ばれるような気がして。
けれども、裏がありそうな表情から一変、親しげな笑みを湛えたジェイドは腰を折って頭を下げた。
「貴方にはとても楽しませてもらいましたよ。フロイドのことを、よろしくお願いしますね?」
「え、こちらこそ……。」
「もしフロイドに飽きたのなら、いつでもいらっしゃってください。僭越ながら、お相手させていただきます。」
「……結構です。」
一瞬本気で感動したのに、すべてが台無しだ。