第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルの必死な説得にフロイドが応じたかといえば、やはりそうではなかった。
ぶうぶうごねる大きな恋人をベッドから引き剥がして追い出すのは、小鹿と化したヒカルには辛い所業だ。
もうダメかも……と思った時にオンボロ寮の戸を叩いて現れたのは、フロイドの片割れであるジェイドだった。
「フロイド、迎えに来ましたよ。」
「あ、ジェイド~。ちょうどよかった、オレ今日は学校休むね。」
「ダメだって言ってんでしょ!」
なんとかヒカルだけは身支度を整えてジェイドを迎えたけれど、フロイドは上半身裸だし、ひとつしかないベッドはぐちゃぐちゃだし、頭の回転が速いジェイドならば、ここでなにがあったのか瞬時に理解するだろう。
身内にアレコレを悟られるとは、恥ずかしい以外の感情が持てない。
ジェイドを直視できなくて俯いていたら、あいかわらず上半身裸のままのフロイドが身を屈めてヒカルの顔を覗き込んできた。
「ヒカルちゃん、なに考えてんの? 今、ジェイドのこと見て赤くなんなかった?」
「なってません。」
むしろ、ヒカルの顔は青いと思う。
「おや、それは光栄ですね。なんだか僕まで照れてしまいそうです。」
嘘をつけ。
照れてみるなら照れてみろ、写真撮るぞ。
「あー、もうヤダ。ジェイド帰ってよ。オレ、今日はヒカルちゃんと遊ぶんだからさぁ!」
遊ばないし、遊べない。
さっき看病するとか言ったのは建て前で、それが本音か?
大きな身体ですっぽりとヒカルを抱きしめたフロイドは、我慢のきかない子供のように駄々をこねる。
「困りましたねぇ。そんなに我儘を言っては、せっかくできた恋人に嫌われてしまいますよ、フロイド。」
「……恋人?」
「ええ、恋人。違うんですか?」
顔だけを上げたフロイドが期待に満ちた眼差しをヒカルに向け、瞳をキラキラさせた。
そういえば、子供を産むとか結婚するとかは言ったけれど、それ以前の現実的な……付き合うとか恋人になるという話はすべてすっ飛ばしていた。