第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルの顔が、絶望の色に染まる。
青ざめ、唇を戦慄かせるヒカルはどう見ても幸福とはほど遠く、そんな表情をさせているのはフロイドだ。
どうして、と純粋な疑問だけが頭に浮かんだ。
どうしてヒカルは、自分のことを受け入れてくれないのか。
どうしてヒカルは、自分のことを抱きしめてくれないのか。
どうしてヒカルは、ジェイドを好きになってしまったのか。
どうして、どうして、どうして。
ヒカルの絶望はそのままフロイドに伝染して、絶頂に達した快楽も、ヒカルを自分色に染めた喜びも、すべてが負の感情に押し流される。
(オレのものになんないヒカルちゃんなんて、いらない。)
ぼたぼたと心が黒く染まっていって、抱きしめていたはずの腕を解き、そして、細くて白い首へと両手を当てる。
ヒカルの身体は本当に細く、人体の生命線である首でさえ、少し力を入れるだけで容易く折れてしまいそう。
フロイドを選ばず、他の誰かを……ジェイドを選ぶヒカルなんて、いっそこの世から消えてしまえ。
邪悪な感情が支配して、首に回した指へ力を込めようとしたけれど……。
無理だ。
ヒカルがいなくなってしまえば、フロイドは泡になってしまう。
他のなにかじゃダメで、代替品の利かないヒカルは、フロイドにとって唯一無二の存在だ。
ヒカルが誰を好きでも、自分のものにならなくても、彼女が存在しているだけでフロイドの世界が輝く。
それだけの人にめぐり逢えたのに。
「……どうして?」
フロイドの頬を、透明な雫が伝った。
ぽたり、ぽたりと溢れては、ヒカルの頬に落ちて弾ける。
「どうしてオレじゃダメなの? ジェイドとおんなじ顔してるよ? なのになんで、オレじゃダメなの?」
フロイドとジェイドは違う。
元は同じ卵から産まれていても、自分たちはまったく違う生き物。
それを一番わかっているのはフロイドなのに、他人から何度も指摘されてきた問いをヒカルにぶつける。
「オレを選んでよ、ヒカルちゃん。ヒカルちゃんが望むなら、ジェイドのマネでもなんでもするからさぁ。」
溢れる涙は、留まることを知らないフロイドの恋情。