第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
長い口づけから解放され、酸素不足のせいで涙ぐんだヒカルの瞳に、冷酷に歪んだフロイドの笑みが映る。
「キス、しちゃったね? 恋人とじゃなきゃしたくねぇって言ってたのに、どうしよっかぁ。」
口づけに酔ったヒカルの頭には理解できない発言だったが、少し遅れて気がついた。
昨日ヒカルは、フロイドに言ったのだ。
キスは恋人とするものだから、しないでくれ……と。
今思えば、あれはヒカルの自衛だったのかもしれない。
身体を繋げ、唇も許してしまえば、そのうち勘違いをしてしまう。
フロイドはヒカルが好きで、自分たちは恋人なのではないかと、都合よく解釈してしまいそうで。
「キスしちゃったから、もうオレと付き合うしかないんじゃね?」
狂気を孕んだ笑みでそう言われ、ヒカルの胸がずきりと痛む。
そこまでして、ジェイドを守りたいのか。
好きでもない女と付き合ったって、フロイドには得もないだろう。
ただ、ヒカルの真剣な想いが弄ばれるだけ。
「……付き合わないよ。」
わたしのことを好きじゃないフロイドとは、付き合わない。
確固たる意志を持って告げたら、一瞬真顔になったフロイドが見たこともないくらい凶悪に嗤う。
「……ヒカルちゃんってさぁ、ほーんと、怖いもの知らずだよね? オレを怒らせる天才じゃん?」
嗤いながら怒るフロイドに、ぞっと背筋が震えた。
「震えてんね、怖いの? だいじょーぶだよ、ヒカルちゃんのことはぁ、オレがキレイに食べてあげんからね? ……骨も、残さず。」
片手だけで拘束されていた腕が解放された。
でもそれは、ヒカルが自由を得たわけではなく、抵抗しても無駄だというフロイドの合図。