第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
今にも弾けそうだったフロイドの怒りは、オクタヴィネル寮を出て、ヒカルの顔を見ると僅かに落ち着いた。
しかし、無防備な服装で食堂へ赴くと言った彼女を許せず、寮の中へ追い返した。
あの白い脚は、自分だけが知っていればいいもので、他の誰もが目にしてはいけない聖域。
ヒカルのあとを追って部屋に入ったフロイドは、彼女のプライベートな空間に居心地の良さを感じながら考えた。
(オレ、なにしに来たんだろ。)
アズールに命じられ、ジェイドから託された仕事は、ヒカルを誘惑してオクタヴィネル側へ引き込むこと。
そうだ、誘惑しなくては。
フロイドが失敗してしまえば、今度こそジェイドの番になる。
クローゼットからズボンを取り出すヒカルの背後に詰め寄って、振り向いた彼女の両耳を掴む。
この耳は、フロイドの声を聞き、フロイドの声に応えてくれたもの。
でも、本当は違ったのだろうか。
彼女が求めていた者はジェイドで、声を聞きたかったのも、応えたかったのも、全部が血を分けた兄弟のものだったのだろうか。
「ヒカルちゃんさぁ、……ジェイドが好きって、ほんと?」
口に出してから、後悔をした。
フロイドの問い掛けに対して、ヒカルは目に見えて動揺し、黒い瞳をせわしなく揺らしている。
そんなヒカルの態度が、ジェイド以上にフロイドを苛つかせる。
違うと言ってほしかった。
そんなことないと、笑って馬鹿にしてほしかった。
「ね、どうなの? ジェイドのこと、好き?」
どうか、違うと言ってくれ。
でないと、オレはたぶん……。
「……好きなの? ジェイドのこと。」
「う……、えっと……。」
どうして早く否定してくれないのか。
ヒカルが否定さえしてくれれば、どんなに粗末な嘘でも信じてみせるのに。
早く答えてくれないから、膨れ上がった怒りが今にも爆発しそう。
「ねえ、答えてよ、ヒカルちゃん。」
早く、違うと言ってくれ。
でないと、オレは……。
「……答えろよ。好きじゃないって、早く言え。」
でないとオレは、君のことを壊してしまう。