第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
「なん、なんで……?」
問い返したヒカルの声は、上擦っていた。
顔を背けようにも耳を掴まれていてはそれもできず、揺れる瞳でフロイドを見つめ返すしかない。
顔ではなく、簡単に引き千切られそうな耳を掴まれているところが怖い。
「アズールとジェイドがさ、そう言うんだもん。ラウンジでずーっと、ジェイドを見てたって。」
「うぇ……!?」
なんてことだ、気づかれていたなんて。
こっそり見ていたはずのジェイドとは一度も目が合わなかったし、アズールもあまりフロアには顔を出さないため、完璧に隠しきれていると思っていた。
というか、ジェイドは自分に好意が向いていると知っていて、あんな無茶振りをしてきたのか。
本当に性格に難がある男だ。
「ね、どうなの? ジェイドのこと、好き?」
「え、いや……。」
はっきり、違うと言えばいい。
ヒカルが今好きなのはジェイドではないし、彼に抱いていた好意だって、恋心とは異なるもの。
でも、こちらを射抜いてくるフロイドの目が怖いくらいに真剣で、生半可な答えを口に出せないと思った。
それこそ、「あなたが好きです」と言わざるを得ないくらい。
答えられず、中途半端な声を上げるしかできなかったヒカルに、フロイドの態度が急速に冷えていった。
「……好きなの? ジェイドのこと。」
「う……、えっと……。」
ぎりっと握られたままの耳に力がこもる。
じんわり覚えた痛みは、フロイドの怒り。
「ねえ、答えてよ、ヒカルちゃん。」
「……ッ」
フロイドは怒っている。
大切な兄弟に好意を寄せたせいなのか、それとも、あさましくも心移りしてしまった愚かな女に向けた怒りか。
「……答えろよ。好きじゃないって、早く言え。」