第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
言われたとおり長ズボンに穿き替えようとしたヒカルは、自室に入ったところでフロイドがついてきたことに気がついた。
てっきり談話室で寛いでいるかと思ったのに、なんの用だろう。
「えぇっと、そこにいられると着替えられないんだけど。」
「……。」
普段ならなにかしらの反応をするはずだけど、フロイドは奇妙なほどに静か。
機嫌は悪いのだろうが、ギスギスした雰囲気も感じられず、あのわかりやすいフロイドの感情が読めなかった。
フロイドは黙ったままヒカルの部屋を歩き回り、チェストやサイドテーブルの上にあるインテリアを物色している。
(なにがしたいんだろ。)
たぶん、意味などはない。
フロイドの振る舞いは気にしないと決めて、クローゼットからズボンを引っ張り出した。
部屋の片隅で着替えてしまえばいいかと振り返ったら、いつの間にやら忍び寄っていたフロイドが背後にいて、再び驚きの悲鳴を上げる。
「どわ……ッ」
「……。」
飛び上がって驚くヒカルにも、フロイドは無反応。
ここまで無反応だと、「なにしにきたんだ、コイツ」という疑念が強まる。
身長差ゆえの高さからじっとヒカルを見下ろしたフロイドは、ゆっくりと腕を上げながらヒカルの両耳を掴んだ。
両手で耳朶を柔く揉みながら、甘いとも、怖いとも思える声色で質問をしてきた。
「ヒカルちゃんさぁ、……ジェイドが好きって、ほんと?」
「……えッ!?」
どっと心臓が跳ね、だらだらと汗が流れる。
それは「オレのことが好き?」と尋ねられるよりも衝撃的な質問で、後ろめたさが尋常ではない。
なにせ、たった数日の間に、双子の片割れに心変わりした女だ。