第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
夕方、いつもより少し早めに仕事を終えたヒカルは、シャワーを浴びてからルームウェアに着替え、誰もいない談話室でひとりお茶を飲んでいた。
フロイドのおかげでオンボロ寮はすっかり綺麗になったけれど、かえってヒカルを落ち着かなくさせる。
居心地が良くなったはずの寮が落ち着かないなんて、おかしな話だ。
でも、落ち着かない理由はきっと、寮が変わったせいじゃない。
(……フロイド、今日は一度も顔を見せなかった。)
変わったのは、寮ではなくてヒカル。
日中一度もフロイドがヒカルのもとへ来なかったのを、気にしている。
ヒカルとは違ってフロイドには授業もあれば、アズールの手伝いもある。
学生である身のフロイドがヒカルを捜して会いにくる理由などなく、昨日まではそれを望んでいた。
彼が姿を見せなくなると、落ち着かなくなるのはヒカルの方で、今日は理由もないのに校舎内を多めにパトロールしてしまった。
それも、二年生の教室エリアを重点的に。
まるで、好きな人ができたばかりの高校生のようで、自分の振る舞いに苦笑した。
(……もう、来ないかもな。)
思い出されるのは、昨夜のフロイド。
楽しそうにはしゃいでいたかと思ったら、急に態度が変化して、そのまま帰ってしまった。
あれは、ヒカルへの興味が失せた合図ではないだろうか。
ヒカルが彼へ想いを寄せた片鱗を察知して、離れていったのではないか。
フロイドみたいなタイプは、いくら懐いていてもこちらが好意を抱いた瞬間去っていく。
(気がつかなければ、よかったのに……。)
フロイドへの恋心なんて、永遠に気がつかなければよかった。
そうすれば、飽きられたあとの感傷に心を痛めることなんてなかったのに。
一口飲んだきり、手つかずだったマグカップに唇を寄せる。
中の紅茶はすっかり冷めてしまっていて、なんだかフロイドの心のようだと思った。