第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
「この野郎、ユウを離せ!」
「……!」
唯一アズールと契約していないジャックが、フロイド目掛けて魔法を放った。
“巻きつく尾”
魔法が直撃する寸前でユニーク魔法である巻きつく尾――カタカナ読みしてバインド・ザ・ハートを発動させ、軌道を逸らした。
バインド・ザ・ハートは他者の魔法に干渉し、失敗するように横槍を入れる魔法。
直接攻撃に向いた魔法ではないが、体術を得意とするフロイドには十分な魔法だ。
「……あっぶねぇな。」
躊躇わずに顔面を狙ってきたジャックを睨むが、真面目で逞しいジャックがそれに怯むことはなく、喉を唸らせて威嚇してくる。
「ユウを離せ。さもなくば……、ただではすまさねぇぞ!」
「なにそれ、ナイト気取り? ウケるね、なんかテンション下がった。……もういいよ、バイバーイ。」
決してジャックの説得に応じたわけではないけれど、フロイドはあっさりとユウを解放した。
口には出さなかったが、ユウが男ではなく女だったからという理由がある。
「ユウ、大丈夫か? オマエ、いつか仕返ししてやるからな!」
「……行くぞ。」
絞められかけてよたつくユウを支えがら、五人が去っていく。
アズールからは追えと命じられたが、気分はすっかり萎えてしまった。
「……珍しいですね、貴方が見逃すなんて。なにか理由でも?」
フロイドと同じく敵を見逃す選択をしたジェイドが、探るような目つきで尋ねてきた。
「だから、テンションが下がっただけー。」
「本当にそうですか? ……ユウさんが女性だったからではなくて?」
すべてを見透かしているように問われ、フロイドの眉間に皺が寄った。
「ジェイド、知ってたの?」
「ええ、少し前から。」
なぜ教えてくれなかったのだ、とは言わない。
フロイドはユウになんて興味がなかったし、今でも興味があるのかと問われたら微妙だ。
「女性に優しく接するのは、とても良いことです。でも、貴方が彼女を解放したのは、それだけが理由ですか?」
含みがある言い方をするジェイドは、やはり、すべてを見透かしているようだった。