第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
契約書を狙ってオクタヴィネル寮に忍び込んだ五人の邪魔者。
彼らの誰を狙うのかといえば、フロイドの中で決まっていた。
一番弱く、一番気に食わない相手――ユウだ。
あの瘦せぎすなひょろひょろ男は、フロイドたちがオンボロ寮を取り上げるまで、ヒカルと二人で暮らしていた。
グリムというオマケがついているものの、男女二人で暮らしていた事実がフロイドをさらに苛つかせ、報復をしてやりたい気持ちになる。
本来であれば契約者であるユウを再起不能にしてはいけないが、今のフロイドにはそれを考える余裕がない。
五人の中で一番小柄なユウは必然的に足が遅く、コンパスの差からして捕らえるのは容易だった。
背後から肩を掴み、ぐんと引き寄せてから首に腕を回す。
「ユウ!」
「フロイド、いけません!」
ユウの仲間とジェイドが揃って声を上げたが、フロイドの苛立ちは止まらない。
このまま腕に力を入れて、ぎゅっと絞めればすべてが終わる。
ユウが再起不能になっても、他の仲間が写真を盗んでくるはずだ。
そう思って絞め上げようとした時、ふと違和感に気がついた。
男のくせに、細くて頼りない骨格。
ふにゃふにゃ柔らかな肉質。
危害を加えようと抱きしめたユウの感触には、心当たりがあった。
「……あれぇ、もしかして、女?」
「……ッ!」
ぽそりと呟いた声は、ユウの耳にだけ届いた。
驚きと戸惑いの表情を浮かべたユウは、視線だけでフロイドの顔を見上げながら青ざめる。
言葉にせずとも、「バレてしまった」と思っているのが明白である。