第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
「ヒカルちゃんが、ジェイドのことを好き……?」
唖然とするフロイドに、アズールがそのとおりだと頷いた。
別に隠していたわけではない。
アズールとジェイドだって、今回の件がなければあえて口に出したりはしなかったし、利用しようとも考えていなかった。
しかし、ヒカルを得ることで利益が出るのなら話は別である。
「ですから、ジェイドは彼女の気持ちを上手く使い、僕たちに協力したくなるよう仕向けて――」
途中から、アズールの話が耳に入ってこなかった。
それよりも、ヒカルがジェイドに想いを寄せていた事実が衝撃的すぎて。
思い返してみれば、初めてオンボロ寮を訪ねた時、彼女はジェイドばかりを見ていた気がする。
話も聞かずにぼーっとして、フロイドが声を掛けてからようやく我に返る始末。
あれは、恋する女の瞳だったのだろうか。
不意に、ヒカルを喜ばせるためにした、ジェイドの真似を思い出す。
ヒカルを元気づけるためにしたそれは、正しかったのだろう。
頬を染め、真っ赤になったヒカルは、見たこともない顔をしていた。
あれは、恋する女の顔だったのだろうか。
しかし、潤んだ瞳も紅潮した顔も、すべてはフロイドに向けられたものではない。
あれらはすべて、フロイドに似たジェイドに向けられた表情。
「……ありえねぇ。」
「ん、なにか言いましたか、フロイド。」
問い掛けてきたアズールを無視し、激情のままにテーブルを蹴り倒した。
「な……ッ!? こら、フロイド! 店の物を壊すんじゃ……って、どこ行くんですか!?」
後ろでアズールが怒る声が聞こえたが、無視して奥へ引っ込んだ。
このまま話を聞いていたら、意味もなく暴れてしまいそうだから。
「……なんなんですか、いったい。今日はやけに機嫌が悪いですね。」
眼鏡の位置を直しながらフロイドの背を見送るアズールの横で、彼が倒していったテーブルをジェイドが元に戻した。
「ジェイド、なにか心当たりはないんですか?」
「ふふふ、どうでしょうね。」
心当たりなら、ある。
最近のフロイドは、いつでも、どこにいても、とある人物に夢中だ。
ああ、やはり、おもしろくなってきた。