第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ソファーで足を組みながら座り、書類に目を落としていたアズールは、あくまで否定的なジェイドをじろりと見上げた。
「ジェイド、わかっていて言っていますね? ヒカルさんをその気にさせるのは、あなたの仕事ですよ?」
「おや……。」
アズールがジェイドを頼り、意味ありげな笑みを浮かべたジェイドの様子が癇に障り、黙っていたフロイドはつい口を出した。
「……なーんでヒカルちゃんをその気にさせんのが、ジェイドの仕事なわけぇ?」
単にジェイドの方が人当たり良いから、という意味ならばいい。
だが、アズールの言い方には少し含みのようなものが感じられる。
その理由を知りたかったのは、ヒカルに対する興味の範疇だと思っていたが。
「ああ、フロイドは知らないのですね。あの用務員さんは、どうやらジェイドに好意を寄せているようなので。」
寝耳に水な発言を聞き、目を見張ってアズールを凝視する。
「………は?」
「気がつきませんでした? 彼女、毎日うちのラウンジに来ては、ジェイドのことを眺めていたでしょう。」
手段こそ横暴ではあるが、アズールは根っからの努力家だ。
自身が経営するラウンジに来店した客の名前と顔を覚え、そして動向には常に目を光らせている。
いつどこで、情報が役に立つともわからないからだ。
学園内でヒカルという人物は、ユウに負けず劣らず目立った存在だ。
魔力を持たない異世界人で、建前上は唯一の女。
そのヒカルが毎日のようにラウンジを利用し、熱い視線をどこへ向けているかなど、少し観察すればわかること。
一方的な恋心ほど、扱いやすいものはない。
ヒカルは隠していたつもりかもしれないが、熱すぎる視線には当のジェイドもとっくに気がついていた。