第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
夜遅く帰宅したフロイドを閉店後のラウンジで待ち受けていたのは、怒ったアズールだった。
「フロイド! こんなに遅くまで、どこへ行っていたのです!?」
「いーじゃん、どこでも。オレがどこにいても、アズールには関係なくね?」
「関係ないわけないでしょう。僕はこの寮の寮長――」
「あーー、うっぜぇ。」
イライラと吐き捨てれば、アズールが小言を引っ込めてジェイドを見た。
フロイドの機嫌の悪さをアイコンタクトで尋ねているようだが、ジェイドは困ったように微笑みながら肩を竦めている。
付き合いが長いだけあり、アズールはこういう時の対処を心得ていた。
すなわち、触れないのである。
フロイドの場合、気分の浮き沈みが激しいので、放っておいてもそのうち勝手に機嫌は直る。
それに付き合わされて右往左往するのは、正しい付き合い方ではない。
ゆえにアズールはフロイドの門限破りも機嫌の悪さも放置し、本題へと話を移した。
「話は変わりますが、例の監督生さんの件はどうなっていますか?」
「つつがなく進んでいますよ。明後日の朝が楽しみです。」
「よろしい。それで、オンボロ寮の用務員さんはどうですか?」
ラウンジのソファーに座り、背もたれにだらしなくもたれかかっていたフロイドは、“用務員”のワードを耳にして頭を上げた。
「ええ、そちらもつつがなく。ねぇ、フロイド?」
ジェイドが微笑みながら同意を求めてくるが、答えなかった。
頭の回る兄弟は、いったいどこまでフロイドのことを知っているのだろう。
「そうですか。彼女には是非、モストロ・ラウンジ二号店開設にあたって協力していただきたいものです。」
「ああ、それはどうでしょうね。ヒカルさんは学園側の方で、ユウさんとも親しい。我々の力になってくれるでしょうか。」
どうやらアズールは、ヒカルをこちら側に取り入れて、彼女の用務員としての能力を狙っているらしい。
実際にラウンジ二号店を開くのならば、人手はいくらあっても足りないだろう。