第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ふざけんな!と怒り狂わなかっただけ、ヒカルは偉いと思う。
わなわな小刻みに震えながら、世間の常識とやらを教えてやる。
「わたしたち、結婚もしてないし、付き合ってもないよね? それで子供ができたらどうするの? 責任、取ってくれるわけ?」
「……責任?」
「わたしが妊娠したら、フロイドが父親だから! 縛られるの、嫌だよね!?」
ここまで言って、それでもわかってくれないようならば、今ここでフロイドのそれをちょん切る。
返り討ちに遭おうとも、絶対にちょん切る。
唸りながら威嚇するヒカルに対し、肝心のフロイドはというと、目を大きく開いて虚を突かれたような反応をしていた。
「あぁ、そっかー。そうなるのか。」
当たり前のことにうんうん頷くフロイドは、頭がいいのか悪いのか。
やはり天才と馬鹿は表裏一体らしい。
楔の先を蜜口に押しつけたまま、しばらく黙ったフロイドは、やがて素直に頷いた。
「わかった、中には出さない。」
「ん、うん、そうして。」
できればもっとちゃんとした避妊をしてほしいけれど、フロイドがそんなアイテムを持っているとは思えず、仕方がないと諦めた。
絶対に譲れない一線は守られた。
ヒカルの要望は通った……はずなのに、どこか後味の悪さが残る。
それはたぶん、フロイドを説得する材料に「縛られるのは嫌でしょ?」というセリフを使ったからだ。
そのセリフを口にしただけで、フロイドはすぐに納得した。
つまり、彼はヒカルに縛られたくはないということだ。
これだけ纏わりついておきながら、身体を求めながら、誰にも縛られたくはない。
それが例え、お気に入りのヒカルであっても。
(そりゃそうでしょ。フロイドにとってわたしは、一時のオモチャなんだから。)
オモチャはいずれ、飽きられる。
気が済むまで遊んで、遊んで、そして飽きたら次のオモチャを探す。
飽きられたオモチャは、すぐにフロイドの中から消え去るのだろう。
わかっていたことだ。
最初から。
それなのに、どうにも胸が痛いのはなぜだろう。
(……早く飽きてほしいのは、わたしの方なんだから。)
痛みから目を背け、虚勢を張る。
いずれ去っていく男に、情の欠片も移したくなかったから。