第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
二人きりの空間でベッドという組み合わせにヒカルはひどく警戒したが、ヒカルの緊張を嘲笑うかのように、フロイドは柔らかな太腿に頭を預ける。
「はい、ヒカルちゃん。いっぱいオレを撫でて?」
「え……、あ、うん……。」
なるほど、膝枕で撫でられたかったらしい。
妙に警戒してしまった自分が恥ずかしく、誤魔化すように咳払いをしてからフロイドの髪に指を埋めた。
メッシュが入った鮮やかな髪は触り心地がよく、指どおりが気持ちいい。
これはご褒美云々を抜きにしても、ヒカルにとって役得だったのではないか。
ヒカルが撫でるだけでブロットが解消されるかは定かではないが、ヒカルのために魔法を連発してくれたフロイドを労い、彼の気が済むまで頭を撫でてあげよう。
……と、思っていたけれど。
「ねえ、もういいんじゃないの?」
「まだー。もっと撫でて。」
このやり取りは、かれこれ五回以上続いている。
ヒカルがフロイドの頭を撫で始めてから、一時間はゆうに超えており、撫でる手首が痛くなってきた。
ついでに、膝もそろそろ痺れてきた。
フロイドはモストロ・ラウンジ閉店後から訪れたので、現在の時間はかなり遅い。
寮の門限はどうなっているのかと問えば、「門限? そんなん知らなーい」とのこと。
各寮には門限がきっちり決められているはずだが、寮長のアズールは身内に対して甘いようだ。
「んー。オレ、眠たくなってきたぁ。」
「え、じゃあもう帰ってよ。」
「帰りたいけどー、ブロットが溜まってて無理っぽーい。」
それを言われると強気に出られない。
ヒカルの頼みが原因で道中にオーバーブロットなんて、冗談にしても笑えない話。
結局、根負けしたのはヒカルの方で、フロイドの気が済むまで頭を撫で続け、髪を梳く心地良さに誘われ、うとうと眠ってしまった。