第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
トンデモ事実を聞かされて慌てているのはヒカルだけで、当のフロイドはどこ吹く風。
ぶつけた顎をさすりながら不思議そうに首を傾げている。
「えっと、じゃあもう寮に帰った方がいいんじゃない?」
「はあ? なんで? 絶対ヤダ。」
「やだって言われても……。ブロットって寝たり休んだりすれば解消されるものなんでしょ?」
「ヒカルちゃん、学校に通ってないのによく知ってんねぇ。えらーい。」
魔法学校には通っていないけれど、ゲームならば暇さえあればやっていた……なんて説明できるはずもなく、曖昧に濁した。
「とにかく! ブロットが溜まったなら休まなくちゃ。もしここでオーバーブロットしたら、わたし死ぬ自信あるもん。」
ヒカルには魔力がなければ使い魔もいない。
フロイドが化け物になった瞬間、長い胴体に巻きつかれてポキッと折れて終わりである。
「ムリムリ。こんな状態で帰ったら、アズールたちに怒られんじゃん。」
「怒られるくらい、別にいいでしょ。わたしなんか死んじゃうんだよ。」
「やーだー! 怒られんのキライ! ヒカルちゃんが責任取って!」
「ど、どうやって。」
フロイドが魔法を連発したのは、ヒカルにも非がある。
責任を取れるならば取ってもいいが、休息以外に方法を知らない。
「んっとね、オレのことぎゅーってしてよ。」
「……十分してると思うんだけど。」
ヒカルの身体にはフロイドの腕が巻きついていて、離れまいと密着している。
これはもう、十分すぎるほどの抱擁だ。
「これはオレがしてるんでしょ! ヒカルちゃんがぎゅってしないと意味ないよ!」
ぶぅぶぅ駄々をこねる190cmオーバーの男性はなかなかに迫力がある。
面倒なので、希望どおりフロイドの背中に腕を回してやると、途端に機嫌を直した彼はさらなる要求をしてきた。
「じゃあ次は、よしよししてぇ?」
「……この体勢じゃ、届かないよ。」
がっちりと抱き込まれていては、手を伸ばそうにもフロイドの頭部に届くわけがない。
普通に並んでいたとしても、頭頂部にはジャンプをしないと触れないだろう。
「ん、わかった。」
諦めたか、それとも抱擁を解消するかと思いきや、いきなり身体を抱き上げられた。
それも横抱き……お姫様抱っこで。