第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
結論から言おう。
オンボロ寮の空き部屋は綺麗になった。
それはもう、開いた口が塞がらないほどに。
昨日も今日も孤軍奮闘していたヒカルは、あまりの速さと美しさに仰天した。
「え、なに……? どうなってるの?」
「どーお? オレ、頑張ったでしょ? 褒めて褒めてぇ!」
抱きつきながらヒカルの頭に頬擦りをしてくるフロイド。
彼は獣人ではなく人魚だけど、心なしか大型犬よろしく尻尾をぶんぶん振っているように思える。
「や、ちょっと待ってよ。いくら頑張っても、現実的にありえない……。」
例えフロイドがプロのホームクリーニング業者だったとしても、たった数時間で寮の空き部屋を綺麗にできるものか。
幻覚魔法にでもかかっているのではないかと疑うヒカルを抱きしめたまま、フロイドがケラケラ笑う。
「なにそれ、おもしれッ! そんなん、魔法で綺麗にしたに決まってんじゃーん。」
「え!?」
「オレ、浄化魔法は得意なんだよ。びっくりしたぁ?」
言われてみれば、ヒカルに幻覚魔法をかけるより、洗浄魔法で部屋を綺麗にする方が現実的だし効率的だ。
ユウたちが約束を守れないと思っている彼らは、オンボロ寮をモストロ・ラウンジ二号店にするつもりなのだから。
「……魔法って、便利だね。」
なんだか、魔法も使えず地道に努力している自分が馬鹿らしくなった。
毎日ヒカルが四苦八苦している仕事も、本当は魔法の力でちょちょいと解消できるものなのかもしれない。
「ヒカルちゃん、なんか元気なくね? なんで? オレ、めっちゃ頑張ったのに。」
「うん、それはありがとうなんだけど、なんか……わたしが普段やってることなんて、魔法が使えたら必要のない仕事なのかなって思って。」
こんなことをフロイドに愚痴っても無駄だ。
薄情で正直なフロイドは、きっとヒカルの存在を否定するような言葉を吐くだろう。