第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
「おっそい!」
ユウたちの足止めをして、それからモストロ・ラウンジで働いたあとにオンボロ寮を訪ねたら、箒を持ったヒカルが目を吊り上げて怒っていた。
「えー。オレ、これでもちょー頑張ったのに。」
「なら、もーっと頑張って。私の仕事とお掃除、手伝ってくれる約束でしょ?」
普段なら、なんて面倒な約束をしてしまったのだと嘆くところ。
でも、なぜかヒカル相手だと、面倒とも思わないし、後悔もしない。
ただ、せっかく来たのだからもうちょっと喜んでくれたり、嬉しがってくれたりしてもいいのでは、という不満が残る。
「ヒカルちゃんさぁ、オレが来ても嬉しくねーの?」
「嬉しいよ、ひとりで掃除するの大変だし。」
と、少しも嬉しそうにせずに答えられた。
フロイドが求めているのはそういう喜びではないし、そういう理由でもない。
「じゃあ、ぎゅーってしてよ。嬉しいんでしょ?」
はい、と両手を広げてヒカルに言えば、途端に彼女の眉間に皺が寄る。
「ねえ、早く!」
「……しないよ。」
「え~、ヤダヤダ! ぎゅーってしてくんねぇと、オレ動かないかんね!」
授業をサボってヒカルの仕事を手伝ったし、アズールから与えられた任務もラウンジの仕事もきちんとこなした。
だから、それくらいのご褒美はあってもいいはずだとフロイドは真面目に思っていた。
それらすべてがフロイドたちの都合や原因であるということは、まったく考えていない。
フロイドはいつも、自分が正しいと思ったことだけを信じている。
こうなってしまうと折れなければならないのは常に周りで、例に漏れずヒカルがため息を落とした。
「……部屋の掃除が終わったらね。」
「終わったら? 終わったらぎゅーしてくれる?」
「終わったら、ね。」
「約束だからね! あは、ヤル気出てきたぁ~。」
端から無理だと思っているヒカルをよそに、フロイドは足取り軽く埃だらけの空き部屋に飛び込んだ。