第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
フロイドには、お気に入りの女性がいる。
このナイトレイブンカレッジにおいて、在籍する女性はひとりだけなので、誰なのかは言わずと知れたこと。
「フロイド、そろそろ例の監督生さんたちの様子を見に行きましょう。」
「えー、ヤダ。オレ、ヒカルちゃんのとこに遊びにいきたーい。」
「いけませんよ。これも僕たちの仕事です。」
「ちぇ~。」
アズールと契約した監督生を見張り、邪魔をするのがフロイドとジェイドの役目。
最終的には博物館の写真も、差し押さえたオンボロ寮もアズールの手中に収め、一石二鳥の算段だ。
難しいことは、よくわからない。
そういう謀を考えるのはアズールとジェイドの仕事で、フロイドはただ、気に入らなかったり、邪魔をしたりする連中を絞め落とすだけ。
「……しかし、意外ですね。そんなにヒカルさんのことが気に入りましたか?」
博物館への道すがら、ジェイドがそんなことを尋ねてきた。
フロイドがヒカルを気に入り、つきまとっていることが意外らしい。
「えー、そお? だってヒカルちゃん可愛いじゃん。」
「可愛い? それは、どういうところが?」
「んー、弱ぇくせに気が強いとことかぁ、どーでもいいとこにヤル気出してるとことか? 見てるとさ、ぎゅってしたくなんね?」
「さあ、ちょっと僕にはわかりませんね。」
フロイドとジェイドは双子だが、嗜好はだいぶ異なる。
フロイドにはジェイドの趣味が理解できないように、ジェイドにはヒカルの良さがわからないらしい。
でも、それでいいと思った。
(ヒカルちゃんのいいところは、オレがぜーんぶ知ってればいいもん。)
例えば、強気なくせに快楽に弱いところとか。
キモチイイ時に見せる、ぞくぞくする表情とか。
それらは全部、フロイドだけが知っていて、他の誰もが知らなくていいところ。
「あーあ。早くヒカルちゃんのところにいきたーい。」
「なら、早く仕事を終わらせましょうね。」
「はぁい。」
ヒカルとの時間を邪魔するユウたちが、ひどく憎らしく思えた。