第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
しくしく、なんてもんじゃない。
感情が爆発したヒカルは、大きな声でむせび泣いた。
いわゆる、お子様泣きというもの。
「ううッ、うえーん!」
ぼろぼろ大粒の涙を零し、声を引っくり返してしゃくり上げる。
恥ずかしいし、情けないし、悔しいし。
どれを取っても涙の理由としては十分で、場所も忘れて大泣きした。
成人女性のガチ泣きは、控えめに言っても引く。
女性に幻想を抱く思春期男子ならば、なおのこと。
ではフロイドの反応はどうかというと、笑うでも呆れるでも、引くでもなく、珍しく動揺していた。
「え……、どうしたの、ヒカルちゃん。ど、どっか痛い?」
「ふぐ、ううぅ~~!」
「泣かないでよ。えーっと、よしよし。」
子供を相手にするように頭を撫で、溢れる涙を必死になって拭ってくれた。
しかし、その程度の慰めで涙がとまるはずもなく、ぼろぼろ泣いてはフロイドを困らせた。
まあ、原因はフロイドにあるのだが。
「うーんと、どうしよう。あ、ジェイド呼ぶ?」
「よ、呼んだら……ッ、ゆる、許さない……ッ!」
それはただの公開処刑だ。
だらしない恰好のまま、だらしなく泣き、ぐちゃぐちゃの顔でフロイドを詰る。
「えー……。じゃあオレ、どうしたらいい? 泣きやませ方なんか知らねぇし。ヒカルちゃんが泣きやむなら、なんでもしてあげるー。」
「ひっく、ぐす……、なんでも……?」
「うん、なーんでもしてあげる!」
言ったな? 言質は取ったぞ?
どうせ約束なんて守らないだろうけれど、ずずっと鼻を啜ったヒカルは行儀悪くフロイドに指を突きつけた。
「じゃあ、わたしの仕事、手伝って! オンボロ寮の掃除も一緒にして!」
明らかに面倒な頼み事。
フロイドならば約束を反故にして「ヤダ」と言うかと思いきや、予想に反してあっさりと頷く。
「いいけど。」
「え……、本当に?」
「うん。だって、そうすればオレ、ずーっとヒカルちゃんといれるもんね?」
「ハ……ッ」
なんて馬鹿なお願いをしたのだろう。
なんでも願いを聞いてくれるというのなら、二度と近づかないでくれ、と言った方がよかったのでは。
しかし、今さらそんなことを思っても、ヒカルの涙はすっかり止まっていた。