第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルに条件を快諾させたジェイドは、フロイドを連れてオンボロ寮を出て行った。
ラウンジの閉店間際で忙しかったアズールを待ったため、すっかり遅くなってしまった。
オンボロ寮に置いてきたフロイドが機嫌を損ねていないか心配していたジェイドだが、予想に反してフロイドの機嫌はとてもいい。
鼻唄混じりに隣を歩くフロイドを見やり、理由を聞いてみる。
「ご機嫌ですね、フロイド。僕がいない間になにかあったんですか?」
「んー? べっつにぃ。でもオレ、ヒカルちゃんのこと気に入ったんだぁ!」
「ほう……。」
先ほども思ったことだが、フロイドはヒカルを名前で呼ぶ。
フロイドはアズールとジェイド以外の者を名前で呼ばず、おかしなあだ名を勝手につけては相手に嫌がられている。
ちなみに、教師であってもそのスタイルは変わらない。
「……彼女のことは、名前で呼ぶんですね?」
「うん。だって嫌だって言うからさー。」
数多の生徒に嫌がられ、教師たちに怒られてもフロイドがあだ名呼びを改める様子はない。
だけど、ヒカルにだけは「嫌がられた」という理由であだ名呼びをやめた。
その意味とは……。
「……ふふふ、おもしろくなりそうですね?」
「なにひとりで笑ってんのー? あ、ねえ、さっきはヒカルちゃんとなに話してたの? オレ、あんまり聞こえなかった。」
「ああ、ちょっとした内緒話ですよ。いえ、特段変わった話ではありません。ただ、彼女が素直に僕たちの話を聞く、スパイスのようなものですよ。」
「ふぅん?」
例の監督生を観察した時、すぐに性別を偽っているとわかった。
けれどフロイドはそうではなく、ユウを男と認識しているはずだ。
それは彼が鈍感というわけではなく、単に興味がないだけ。
気分屋のフロイドは、興味の移り変わりが多くて早い。
今回もまた、変わったモノに興味が向いているようだが、その興味はいつまでもつだろうか。
明日か、明後日か、それとも……。
「ふふ。やはり、おもしろくなりそうです。」