第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
フロイドを無自覚なイカレ野郎だとするならば、ジェイドは自己認識したイカレ野郎である。
どちらがより悪質かといえば、五分と五分。
すなわち、リーチ兄弟は総じてイカれている。
ただジェイドの厄介なところは、物事をよく考えながら行動しているところだ。
例えば、ヒカルの弱みとか。
ジェイドから秘め事を囁かれたヒカルは、目をかっ開いた。
なぜ知っている?と目で問えば、ジェイドがおもしろそうに唇を歪ませる。
「ウツボはね、血の匂いに敏感なのですよ。ご安心を、むやみやたらに噂を広めるような真似はしませんよ。……貴方が条件を呑んでくだされば、ね?」
裏を返せば「条件を呑まなきゃ噂を広めるぞ」と言っているようなもので、ヒカルの眉間に皺が寄る。
「名門魔法士学校といっても、不埒な輩は多いんですよ。監督生さんに不満を抱く人も、多い。このことが知れ渡ったら、ふふ、どうなるんでしょうね?」
学園の中には、ユウに対し「魔力もないのに生徒面しやがって!」と思っている者もいる。
そういう連中に性別を知られたら、ユウを取り巻く環境は悪い方向へ変化するだろう。
ユウが苦しむ姿は、見たくなかった。
「……条件を、呑んでくださいますね?」
「……。」
ぎりっと奥歯を噛んだ。
簡単なことだ、寮の掃除をすればいいだけ。
たったそれだけでユウの秘密が守られ、ついでに三日後にはユウのもとに寮が返ってくる。
迷う必要もない条件だけど。
「なにか仰りたいことがおありのようですね?」
「いや、別に。ただ、とんでもないゲスだなって思っただけで。」
「おや、ふふふ。最高の褒め言葉ですね。」
そういう腹黒いところが好きだったけれど、実際に被害を受けてみると、腸が煮えくり返る思いだった。