第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルが大掃除から逃れられる方法は、ひとつだけあった。
「えーっと、それはユウたちが条件を達成できなかった時……、三日後からでもいいかな?」
ヒカルたちがアズールと交わした契約の内容として、三日以内にアトランティカ記念博物館からとある写真を持ってくること、とある。
その条件が達成できればオンボロ寮は無事ヒカルのもとに戻ってきて、イソギンチャクを生やした生徒の魔法と奴隷化も返還解消される。
警備が厳しい博物館から写真を盗んでくるのは至難の業だが、そこはやはり主人公。
最終的にユウたちは写真を奪ってくる。
人知れず奪われた写真はのちに返還されるので処罰も下らないが、問題はそこではない。
オンボロ寮はヒカルの手に戻ってくるのだ。
なので、ここがモストロ・ラウンジ二号店になる日は来ず、ヒカルが掃除をしても無駄なだけ。
三日待てば、ヒカルも条件から解放されるので、ユウとアズールの戦いが終わってからにしてほしかったのだが……。
「いえ、これはヒカルさんが寮に滞在するための条件ですから、ユウさんの契約とは別です。掃除は今日からでも始めてください。」
「ん、んー……。でも、わたしはクロウリーから寮を使うように命じられているわけだし、そもそもアズールくんの指示に従う必要はないよね?」
話が通じないようなので、必殺“話は学園長を通してもらおうか”を発動させた。
そうすれば、せめて条件の始動は三日後まで延びると考えていたのだが、交渉の場においてはジェイドの方が一手も二手も上手だった。
「ふふふ……。でもあなたは、僕たちの条件を呑みたくなると思いますよ?」
あ、ものすごい悪い笑み。
その顔がすごく好きだけど、こうして矢面に立ってみると恐怖しかない。
長い足で一歩距離を縮めたジェイドが、ヒカルの耳もとで囁いた。
「いいんですか? ユウさんが女性であることを、うっかり喋ってしまうかもしれませんよ……?」