第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
働いているとはいえ、ヒカルは学園の外にも出たことがない異世界人。
協力してくれる仲間もおらず、ユウが課された条件のような無理難題を押しつけられたら非常に困る。
そんな心の内が顔に出ていたのだろう、無言になったヒカルにジェイドが穏やかに微笑んだ。
殺人的な威力を持った笑顔が眩くて塵になりそうだったけれど、やっぱり目だけが笑っていない。
「ふふ……、そう怯えないでください。簡単なことですよ、ヒカルさんにはこのオンボロ寮をモストロ・ラウンジ二号店に改装すべく、お手伝いをお願いします。」
「お、お手伝い?」
「ええ、この寮が正式にアズールのものとなれば、内装も外装も手を加えますが、抑えられる初期費用は抑えておきたいのです。ですからヒカルさんには、手つかずの部屋をすべて掃除していただきたい。」
「……え。」
簡単に言ってくれるが、このオンボロ寮はかつて寮だった建物だ。
寮生が生活するにあたって、部屋数だけはたくさんある。
しかしながら、長年放置されていた部屋は悲惨な状態で、状態が良さそうな部屋を抜粋して掃除し、ヒカルとユウの部屋にしていた。
使いもしない部屋を掃除しても時間の無駄だし、今までは手つかずのまま放置していたのだが……。
「それは……、ひとりで?」
「そうですね。僕もお手伝いしたいのですが、何分用事が多いもので。すみませんが、お願いできますでしょうか。」
物腰だけは丁寧だけど、ジェイドの口調には有無を言わせぬ迫力がある。
ひとりでオンボロ寮全体を大掃除。
一部屋だけでもしんどいのに、全体となれば気が遠くなりそうな作業だ。
お金を払って滞在させてもらった方が、何倍も楽である。