第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ジェイドがオンボロ寮に戻ってきたのは、それから僅か10分後。
本当にいろんな意味でやばかった。
無理やりにとはいえ、行為中にジェイドが帰ってきていたらヒカルは死んでいた。
「ただいま戻りました。……おや、どうしました、ヒカルさん。なにやらお疲れのようですが。」
「い、いえ、お気になさらず。」
自分の身体を迅速に清めて、汚れた床を光速で拭いて、匂いがこもった部屋を神速で換気した。
たった10分でそれだけの仕事をこなしたヒカルはゼエゼエ息を荒げているが、その間、フロイドはソファーに座って寛いでいた。
邪魔はしない代わりに手伝いもしないフロイドが、「ヒカルちゃんは働き者だねぇ」と口にした時には、本気で殺意が湧いたものだ。
ジェイドが初めてヒカルの名前を呼んでくれたのだけが、精神的に疲れ果てたヒカルの癒し。
「それで、ヒカルちゃんはどうするのー?」
「ええ、その話ですが……ん、ヒカルちゃん?」
「追い出すとか、かわいそーじゃん。このままここに置いてあげたらぁ?」
フロイドがヒカルを名前呼びしたことにジェイドは違和感を覚えたようだが、あえて追及はされずに食えない笑顔を浮かべた。
「……安心してください、僕もアズールも同じ考えですよ。ヒカルさんは、このまま寮に滞在してもらって結構です。」
「それは、よかった……。」
こればかりは原作にない話なので心配していた。
もし今から出て行けと言われたら、身支度に宿探し、仕事道具の置き場所探し、やることが多すぎて気絶しそうだったから。
だが、安心したのも束の間、目だけが笑っていないジェイドが条件を突き付けてきた。
「ただし、タダでとはまいりません。仮にもここは、アズールが差し押さえた物件ですので。」
「え……。」
タダじゃない。
ということはなんだ、お金でも取るのか。
いや、お金で済めばまだいい。
アズールは、容赦ない要求をすると有名な男。