第1章 全話共通プロローグ!
ふてぶてしさと繊細さの両方を持ち合わせたグリムは、しかし、開き直るのも早かった。
ふんと鼻を鳴らし、選ばれなかったのは己の才能のなさではなく、闇の鏡の見る目がなかったせいだとボヤき始める。
「まあ、そういうことだから、わざわざオレ様の方から来てやったってわけだ。オレ様みたいな優秀な魔法使いを放っておくなんて、世界の大損失なんだゾ!」
ポジティブもここまでいくとある種の才能。
だが、ポジティブだけでは現状を打破できない。
天上から滴る雨水が、ぽつんと床に落ちてきた。
「わ、雨漏り! そうだよね、これだけ古いんだもん。雨漏りくらいするかぁ……。」
雨漏りは一ヵ所に留まらず、ぽつりぽつりと滴り落ちては床に染みを作っていく。
「バケツ、一個じゃ足りないね。自分、もっとないか探してくる。」
ヒカルやユウに魔法が使えたのなら、パパッと直して問題解決しただろうが、なにせポンコツ異世界人なもので、そういう解決法は期待できない。
ちなみにグリムはというと、自分で過大評価するほど魔法の才に恵まれておらず、炎で攻撃するというワンパターンな魔法しか覚えていない。
「グリムもちょっとは手伝ってよ。」
「やーなこった! オレ様はちょっとここで雨宿りしてるだけの他人なんだゾ!」
ユウの頼みを退けて尻尾の水を払ったグリムは、埃だらけのソファーへ腰を下ろした。
「……バケツ、探してくる。」
諦めたユウはひとり部屋を出ていって、雨漏りの受け皿となるべきものを探しに行った。
「汚いソファーなんだゾ。オレ様の自慢の毛並みが汚れちまう。」
ヒカルと二人きりになったところで、グリムが再びボヤき始めた。
雨に濡れて泥だらけだった毛が埃塗れになったところで、それほど大差はない。
「ねえ、ちょっと。早くユウを追いかけてよ。」
「は? なんでオレ様が。」
「か弱いニンゲンひとり働かせて、偉大なる魔法使いの卵様がふんぞり返ってるなんて倫理的におかしいでしょ? ほら、早く!」
「倫理的……? なに言ってるんだ、オマエ。……わッ、箒で叩くな! わかった、わかったんだゾ!」
すべこべ言わずにさっさと行くがよい。
じゃないと物語が進まないだろう。