第1章 全話共通プロローグ!
しとしと、雨が降ってきた。
雨足は徐々に強まって、拭いたばかりの窓を叩く。
「降ってきたね。外壁に洗剤かけまくったら、雨の力で綺麗にならないかなぁ。」
「そういえば、あんまり話を聞いてなかったけど、ここって魔法使いの学校なんだよね? 掃除くらい、魔法でパパッとやってくれればいいのに。」
「ああ、ね。でもそこはほら、ご都合主義っていうか。」
「ご都合主義……?」
「えっとつまり、魔法の乱用はしちゃダメなんだよ、きっと~。」
無知なる監督生との会話は、意外と神経を遣う。
けれどもユウは素直な子らしく、こちらの言うことに「なるほど」と頷いた。
「そういえばヒカルは、どうして学園長の名前を知ってたの?」
「あ、うーんと、それは…――」
クロウリーと対面した時のヒカルは明らかに不審者で、どう説明すればいいのか迷っていたら、不気味な猫の鳴き声が間に入る。
「ふなぁ~~ッ、急にひっでぇ雨だゾ!」
「わあッ、びっくりした! ……って、グリム! なんでここに、追い出されたはずじゃなかったの!?」
「ふふん、あの程度でオレ様を追い払えたと思ったら大間違いなんだゾ! 学園に忍び込むなんてチョロイチョロイ!」
ハーツラビュル寮長リドルの手によって追い出された化け猫風モンスターのグリム。
大雨に見舞われたせいか、自慢の黒毛が濡れている。
「オレ様が入学を諦めるわけないんだゾ!」
「どうしてそんなに入学したいの?」
「そりゃあ、オマエ、オレ様が大魔法士になるべくして生まれた天才だからなんだゾ! あの黒い馬車が迎えに来るのをずーっと待ってた。なのに、なのに……。」
グリムのチャームポイントである青い炎の耳がしゅんとへたった。
ヒカルがこの世界にトリップするきっかけでもあった黒い馬車は、闇の鏡によって選ばれた優秀な魔法使いの卵を迎えに来るためのもの。
グリムのもとへ馬車が来なかったのは、つまり、そういうこと。