第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
本当に頭がイカれた人間には、そもそも言葉が通じない。
気分屋のフロイドはイカれ具合にも波があるけれど、不運なことに、今は気分の波が高い時らしい。
つまり、言葉が通じない時だ。
「そっかぁ。でもオレは興味があるから、勝手にするね?」
「え? ん、え…っと……!?」
意味を理解するまで、少しの時間が必要だった。
けれど、その少しの時間を与えてくれるような気が利く男ではない。
「んじゃ、ズボン脱いで~。人間の服ってめんどくさいよね、海ではみーんな裸なのにさぁ。」
「ちょっと待って、ねえ、待て! やらない、しないから!」
「オレ、ボタン外すの苦手なんだよねぇ。下だけでいいから、早く脱いで?」
「聞いてる? ねえ、脱がないし、やらないってば!」
ずっと掴まれていた腕を解放されたのを機に、ヒカルは本気で暴れ始めた。
ひとまず距離を取らねばならないと判断したため。
しかし、これがフロイドの機嫌を損ねる。
フロイドは気分屋なだけあって、キレやすい。
「ぐだぐだうっせーなぁ……。おとなしく脱げよ。絞められてぇの?」
地を這うような声色に、びくりと跳ね上がった。
どんなにイケメンであっても、常識が通用しない男に凄まれると身体が竦む。
ヒカルが黙り込んだのをどう解釈したのか、フロイドの機嫌が一転して良くなった。
「あ、そっかぁ。オレに脱がしてほしいんだ? 小エビちゃんって甘えん坊さんだねぇ?」
「ち、ちがう……! その呼び方もやめ――」
一度そうと決めたフロイドの行動は早い。
あれだけ面倒だと言っていた人間の服を瞬く間に緩め、下着ごとズボンを引き下ろしてしまう。
上半身は作業着を身につけ、下半身は素っ裸という情けない恰好になり、ヒカルはヒッと息を呑んだ。
「や、や……ッ」
「あー、これが人間の生殖器かぁ。ねえ、濡れるってほんと?」
純真無垢な少年のような問いをするが、やっていることは純真でも無垢でもない。
ついでに言えば、ヒカルにはフロイドの問いに答えてやる余裕なんか露ほども残っていなかった。