第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ヒカルの腕を掴んだまま、フロイドがヒカルの耳朶に唇を寄せた。
吐息が耳に触れてぞわりと鳥肌が立ったが、そんな擽ったさもフロイドの質問によって彼方へ吹き飛ぶ。
「人間の交尾って、どうやってすんの?」
「……は?」
人間の……、なんだって?
呆然と聞き返したら、フロイドの口が視界に入った。
ギザギザの歯を覗かせて、悪戯が成功した子供のように無邪気に笑む。
「だからぁ、人間の交尾。オレね、人間の仕組みに興味あるんだぁ。人間って、腹の中でタマゴ育てるんでしょ?」
「……人間は、卵……産まない、よ?」
なんて、子供にするような返答をしながら、ヒカルは焦っていた。
だってなんだか、危険な香りがする。
「へぇ~、そうなんだ! なんかそれ、楽しいね?」
「いや、全然……。」
なんにも楽しくなんかない。
卵生か胎生かの違いだけだ、どうしても気になるのなら教科書でも読んでくれ。
しかし、悪い予感というのはなぜこうも当たるのだろう。
ふっと漏れたフロイドの吐息が妙に艶っぽく、ヒカルの耳に吹き込まれた。
最悪の誘いと共に。
「ねえ、じゃあ、オレと“楽しいこと”してみよーよ。」
恐ろしく、恐ろしく色気を孕んだ声だった。
うっかり頷いてしまいそうな威力を持っていたが、流されるような雰囲気でも相手でもない。
「しない! 絶対しない!」
即答で、全力で否定した。
中途半端に曖昧な言葉で濁してしまうと、取り返しのつかない事態になってしまう。
しかし、全力で否定したところで効果があるのかどうかは、また別の話である。
なにせ、相手はあのフロイドなのだから。