第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
ソファーの下を覗き込むようにしてペンを拾った。
手に取って確かめてみても、やはりユウのペンだ。
明日、仕事の合間にユウを見つけ、渡してあげよう。
そう思って立ち上がった時、背後からなにかが覆い被さり、ヒカルの腕を無理やりに掴んだ。
「なーにやってんのぉ?」
「……ぐッ、いったぁ。なに、すんの!」
背後から襲い掛かってきたのは、フロイドだった。
襲い掛かるというのは、少々語弊がある。
彼はただ、ヒカルに抱きついたつもりかもしれないが、力加減がどうにもおかしくて、掴まれた腕が悲鳴を上げる。
「おとなしくしてろって言ったのはそっちじゃん? なんでウロチョロしてるわけぇ?」
「ペンを、拾ってただけ……!」
それにヒカルは、ソファーから移動しただけだ。
自分の住まいの談話室を歩いてなにが悪い。
しかし、それよりもなによりも、フロイドの力加減がおかしすぎる。
「痛い! ねえ、ほんとに腕が折れちゃう!」
「えー? でもオレ、そんなに力入れてねーけど。」
「そのへんの筋肉マンと一緒にしないでよ! わたし、これでも女なんだから!」
フロイドのことだ、どうせヒカルが女であることも忘れている。
案の定、背後でこてりと首を傾げた。
「えー? あ、そっかぁ、女なのか。だからこの腕、小枝みたいに細っこいんだ。あは、ポキッと折れちゃいそう!」
「や、やめてね?」
冗談だと信じているが、フロイドならばやりかねない。
ヒカルの不安を煽るように、掴まれた腕がぎりっと軋んだ。
「……ッ、ねえ、痛い。もう離して。」
「えー? うーん、どうしよっかなぁ。」
ふざけるな。
悩んでいる場合じゃないだろ、解放の一択だ。