第3章 気分屋フィクル!【フロイド】
フロイドとジェイドは血の繋がった“ほとんど双子”の兄弟だ。
ゆえに、黙っていれば二人の顔はよく似ている。
黙っていれば、だが。
「ジェイドおそーい。ねえ、ヒマぁ。なんかおもしろい話してよ。」
「そんな無茶振りをされましても……。」
双子キャラ推しの苦悩として挙げられるのが、「兄が好きなら、同じ顔の弟も好きでしょ?」みたいな例がある。
否定はしない、中にはそういう人もいるだろう。
が、ヒカルは違う。
ヒカルがジェイドを好きな理由は、丁寧な口調からは想像できないほどの腹黒さと、部活や飛行術でのギャップである。
数多の女子は、ギャップに弱い。
ツイステの登場人物は、皆なにかしらのギャップを抱えているが、ヒカルにはジェイドのそれが刺さった。
その点フロイドはというと、あまりギャップがない部類に属される。
気分屋の性格はどこまでいっても気分屋だし、掴みどころのない性格はどこまでも掴めない。
フロイドは嫌いじゃない。
けれどヒカルの性癖に刺さるのはやっぱりジェイドで、フロイドにいたっては、現実ではあまり近寄りたくないタイプだ。
彼にとって、身内以外の人間は“オモチャ”でしかないように思う。
「ねーねー、ヒマぁ。」
「ジェイドくんにこの場を任されたんでしょ? おとなしくしてたらどうかな?」
「えー、つまんなぁい!」
談話室をうろつきながらブーブー文句を言っているが、仕事から帰ってきたのに部屋で休めもしないヒカルの方が文句を言いたい。
寛ぎたいのを我慢しているところに加え、フロイドの暇潰しにされては堪ったものじゃない。
大きなため息を吐きながら、ふと向かいのソファーの下に視線をやると、見覚えのあるペンが落ちていた。
(あれってユウのお気に入りのペン。慌てて寮を出たから落としたのかな?)
ユウは連日談話室で勉強をしていたから、その時に忘れたのかもしれない。
どちらにしても必要なもの。
最終的にこの寮はユウのものとなって帰ってくるけれど、うっかり捨てられでもしたら大変だ。
腰を上げたヒカルは、テーブルを挟んだ向かい側のソファーへと足を向けた。